花配達人

さきほど花を配達に初老の男性が来られた。下妻市の「ハナ○○」という花店の人である。
犬が騒ぐので出ると、門扉の前にH花店の名前の入った車が停まり、その配達人は伝票をひらひらさせていた。
私が「ハイ」と言いながら近寄ると、配達人は、「○○○○○さんですね」と私の名前をフルネームで正しく言って訊いた。私は「ハイ、○○○です」と明確に答え、伝票に記名するべく手をのばした。

配達人は、私に伝票をわたしかけて、ちょっとその手をひっこめ、犬たちと家の全景を見回し、「ほんとにここでいいのかなぁ」と言ったのである。

私は、「ここならおかしいですか?」と訊いた。彼の弛緩した笑いを烈しく嫌悪するものがおこったが、数多くの犬と手入れのされない家の様子を見て、『花が贈られるような家ではない』と値踏みをしたそのままの薄ら笑いは、噴出したいくらいおかしかった。気づかぬふりしてその場をしのいでもよかったが、だがそいつは、夫の死に、てめぇの汚物をかけて許されると思い込んでいる輩だ。一言本当のことを言ってもいいだろう。
「おじさん、鼻先に無知蒙昧というホルダーがぶらさがってますよ」。


思えば、脳梗塞をやって以後の夫と、たくさんの猫や犬を抱え守ろうとしてきた暮らしの中で、ずいぶん大人しくしてきた。耐え忍ぶことで、彼らを守れることがあった。
だが、最も守ろうとした夫が死んで、何を耐えねばならない?