その後

■おがえり
夫がいる時、外出する用事のある時、家で留守番してもらうのは立てないのに立とうとして転倒したり、ベッドから落ちるなどの心配があって、たいてい一緒に行った。それでも手紙をポストに入れるだけなどの用事の時は私一人で行くこともあった。
そういう時は、用事を済ませるとフルスピードで帰宅し、玄関を開けると、「ただいま〜!」と大きな声で言った。返事がすぐにないと、「ただいま〜」「ただいま〜」と何度も声を張り上げて言った。

「おがえり〜」
やっとそう答えがかえる。最後の頃は、「おかえり」と言えなくなっており「おがえり」になっていたのだ。
その声が聞こえると、ほおっとして、安心して部屋に入った。


■ケアマネージャーさん
昨日(21日)、借りていた医療用のベッドをお返しした。ケアマネージャーさんとベッドの担当の方が一緒にこられて、ベッドを搬出した後、しばらく話していてくださった。
ケママネさんとは介護保険がスタートしてしばらく後からのお付き合いでずいぶんお世話になった。お若い女性の方で、あれから何年も経ち、最近ご結婚をされたという。最初の頃は夫もスタスタ歩けていて、談笑と言っていい会話が出来ていた。
夫の思い出話しをしあっていると気持ちが和んできて、最初の頃ケアマネを担当してくださった社長さんのことにふれたりした。
介護保険がはじまると同時にお宅の社長さんがケアマネをして下さったんだけど、私は捨てられる動物のことで欝状態でいたので、ちょっとしたことにつっかかっていったのよ。今でも失礼なことを言ったなぁと申し訳なく思っているの。・・・そういえばおたくの社長、イケメンよね」など言ったのだ。
「え〜! イ・ケ・メ・ン〜?!」とお二人は顔を見合わせて笑った。ひさしぶりに我が家に笑い声がたった。

本当にお世話になりました。ありがとうございました。

※会話の中で、ベッドの担当の方が昨年の暮れ近くに点検に家にみえたのだが、その日のことをこう言ってくださった。
「昨年ベッドの点検で伺ったとき、ご主人が椅子に座ってテレビを見ておられましたけど、あの時、ゆったりとした表情をされて、お幸せそうだなぁと感じたんですよ」。
このように話してくださり、本当に嬉しかったです。ありがとうございました!


■諸手続き
夫が亡くなって、泣いてばかりでいたわけではない。いろんな手続きをしなくてはいけないのだ。息子が仕事を一日休んで手続きをしに行くよ、と言ってくれたが、そこまで依存するわけにはいかない。
まず役場に年金の受給停止の手続きに行った時、応対してくださった男性職員の方が、「お悲しみの中いろいろ手続きがあって大変ですね。でもおくさんのこれからの暮らしのためにも頑張ってやっておいてくださいね」と気遣ってくださった。
他の何人かの職員さんがわざわざ「ご愁傷様でした」と声をかけてくださった。

この町はなんとやさしい町だろう、町民の訃報を職員のみなさんが把握して気遣う町がほかにあるだろうか、ととても感激した。そして頑張って必要な手続きをした。
昨日はちょっと遠い年金事務所に行ったのだが、ここでも応対してくださった職員さんが本当に親切で助かった。かってこうした公的な窓口は「つめたい」「不親切」が定説になっていたものだし、実際苦虫を噛み潰すような気分になったことも多々あったものだ。茨城という土地柄が親切なのか、本当に救われた。


■コメント、メール、お手紙、お菓子、お花
年金の変更手続きで順番を待っている時携帯がなり、あわてて外に出て受けると、M子さんからだった。
「今、お線香をあげさせていただこうとお宅の前に来ているんだけど、どこにいるの?」
そういえばM子さんの声の向こうから複数の犬の吠え声も聞こえる。うちのウルサ犬たちの声なのか。
「今、下館・・・」と事情を話すと、「じゃ帰るわ」。
恐縮しながら手続きを終えて帰宅し、その後ベッドの搬出などがあり、夕方になって郵便物をとろうと郵便受けを見ると、M子さんからの「お花代」が入っていた。びっくりしてますます恐縮し電話をすると、夫の死を悼み私を気遣ってくださった。涙がまた止まらない。

昨年から壊れたままになっているプリンターを直すことにした。ブログにいただいたコメントやメールを印字して、大切にファイルしておきたいからだ。心が疲れ弱った時、すぐに何度もそれを開くだろう。そして力づけられるだろう。

お手紙もいただいた。本当に嬉しかった。夫の灯明にかざして何度も読み返している。

朗読の板垣正義さんとネモさんがお菓子を何種類も送ってくださった。私が甘いものが大好きということをよく覚えていてくださって、タイプの違うお菓子をとりまぜて下さったにちがいない。その深いお心遣いがありがたく、私は毎日、夫のおこつのわきにそなえたお菓子をパクパクいただいている。こんなに美味しく温かいお菓子ははじめてだ。


岡田なおこさんからお花が届いた
ideさんお花となおこさんのお花に囲まれて夫はのんびり笑っているに違いない。できるだけ長くいてもらいたいと、私はスポンジの湿り具合の点検をしている。

夫がこんな風に逝ってしまう前、私はつまらぬことにつまづいて、なおこさんに随分失礼なメールを送った。
なおこさんのお花はなおこさんの優しさと大きさを証して、ひときわ芳しい香りをあふれさせ夫と私を慰めてくれている。
私がちょっとしたことを気にして、いちいちなおこさんにつっかかったのは今回がはじめてではない。これまで二度か、三度か、ひょっとしたら四度かあった。そのたびになおこさんは気づかぬ風に接して下さり、固まりそうだった時刻をはらってくださったのだ。

ところで、岡田なおこの最新作の「ママーレードさん」(コナツチャン@ファンサイト 謎のマーマレードさん=フォア文庫童心社・刊)ですが、本音で言いますがあれは私の中で、『岡田なおこ、チョーおもしろ作品、トップ3』に入ります。最初、ちょっと読みにくいかな、と思いかけたのですが、それは一瞬のこと、すぐに、座りなおしてひきこまれました。岡田なおこらしい深さ、に感動しました。