相棒 密愛

<ネタバレしています>



杉下右京(水谷豊)は、東大の学生だった頃の現在は翻訳家をしているフランス文学の先生悦子(岸恵子)に呼ばれ、彼女が住む山荘に行く。
右京は車を降りて玄関に向う前に、焼却炉のそばに、ハーブティが入れ物に入ったまま捨てられているのを見つける。ハーブティのひとつまみをハンカチに包んでポケットにしまう右京。


悦子は、借りたお金が返せなくなり金融関係の男に追われて倒れそうになっていた榊という男(国広富之)を助け、山荘の別館を貸し、薪割などの雑事の仕事をさせていた。
その榊が数日前に自殺をしたのだという。そして、右京に、榊原の遺族をさがしてほしいと依頼したのだ。


手がかりは免許証のみ。右京は調査をする。
「榊原さんは奥さんを亡くされて、身内はいない、ということですが・・・・・それはともかく・・・果たして自殺でしょうかねぇ」と右京は、悦子にそう言い出す。


右京は、麓のまちで、ある店の女主人に榊の写真を見せる。すると女主人は、「この人は知ってますよ。羊の仮面をかぶった悪党ですよ」と言う。女主人は、榊の挙動に何となく不審なものを感じて気をつけてのぞいていたのだが、奥さんに紅茶を淹れる時、小さな壜を取り出し、液体を紅茶に注いでいるのが見えたと言う。そうして奥さんは日に日に身体が衰えついに亡くなったのだという。


そして右京は、榊の枕の下から、悦子が翻訳した本と上等な万年筆を見つける。万年筆には盗聴器がしかけてあった。
右京は悦子に、物語を語るように、悦子と榊の濃密な愛と、ひとつの疑心からその愛が壊れ、榊を殺していったことを明かしていく。
悦子は、自分がしかけた盗聴器で、榊が自分の財産を狙って近づき、自分を死に至らそうとしていることを知る。悦子は才色兼備を備えた素晴らしい女性であるが、実は身体に大きなあざがあり、それの劣等感が、男性との愛を諦めさせていたのだ。榊は、そのあざをも受け入れて愛してくれた、と信じ幸せ感でいっぱいだった。
それらの全てが嘘だったと知り、榊が自分に飲ませて殺そうとした薬をハーブティに入れて逆に榊を殺したのだった、と。


悦子は、「部屋はドアも窓も鍵がかかっていて密室だった。誰かが殺して出ていったはずはない。自殺なのだ」と主張する。「薬の壜には榊の指紋しかなかった」とも。


右京は、静かにだが確信をもって言う。「密室にできた人はたったひとり。榊さんです。榊さんは、悦子さんが出て行った後、自分はもはや助からないと悟り、最後の力を振り絞ってドアの鍵を閉め、薬の壜のあなたの指紋を消し、自分の指紋をつけ、息絶えたのです」。
「なぜ・・・自分を殺そうとしたものをかばおうとするの?」
「それは、あなたを愛していたからです。榊さんは、一度もあなたに薬を飲ませていなかった。外に捨ててあったハーブティには、肌を美しくする養分の葉が入っていた。榊さんはあなたのことを真実想っていたのですよ」


最後に、悦子は右京にともなわれて警察に向うのだが、この時、右京を呼んだのは、自分がこんなに愛されているのを誰かに知ってもらいたかったのだ、と言う。つまり、悦子は全てを解いていたようだ。これは私は納得できた。悦子は自分の前で苦しむ榊原を見ている。その後部屋を飛び出している。そのあと、部屋に鍵がかかっていたのだ。頭のいい悦子は、そこで全てを知っただろう。榊が、悦子に疑いがかからぬよう、死ぬ前に自殺に見せるように細工をしたことを。そして、自分は愛されていたことを。


誇り高く生きる女性の愛憎を、凛としなやかに演じて、岸恵子ならではだと思った。国広富之も謎めいた善悪どちらにも見える男の香りを出していた。

それにも増してやっぱりすごいなと思ったのは水谷豊。
岸恵子の演技は独特な独善性があるので、右京を演じていくのはやりにくいのでは? と思うのだが、水谷豊はブレルことはなかった。

他の刑事の出ない、趣が短編の推理小説風で、原作は何だろうと思ったのだが、脚色:古沢良太。演出:和泉聖治と出ていたのでオリジナルなんだろうか。