遺恨あり 小沢征悦考

小沢征悦をドラマでたまに観るようになった何年か前の頃、『この人は目が綺麗でいい顔立ちをしているのにぱっとしないなぁ』と思った。そしてなぜ人がちやほやするのかわからない、という思いをももっていた。なんと言うのか、役に対して茫洋とした印象なのであった。役柄として茫洋とした風情を湛えている、というのではなく、本人自身がぼんやりして見えるのである。

大河ドラマでいえば、篤姫西郷隆盛を演じられた時も、風貌などでは際立ったものがあるのに、存在感として西郷隆盛として伝わってこず、他の人物のなかにいるとまったく影が薄く感じてならなかった。

ところが昨年の年末に封切られた相棒を観て、小沢征悦という役者の鋭さを感じたのだ。そうそうたる俳優陣のなかにいて光ってみえたのだ。相棒の成功は、小沢征悦があの役であったからだと思うほどであった。


そして今回の「遺恨あり」である。
藤原竜也待ち伏せる道より一段高い山道を、東京に向かって一人急ぐ小沢征悦。そして、微かな殺気を感じて全身を鋼のように研ぎ澄まし、あたりを窺う。・・・この鋭さに観ていて息がとまりそうな気がした。黒澤明監督の七人の侍宮口精二を彷彿とさせる剃刀の刃のような鋭さ。
それを下の道でに身を潜めて感じ取る藤原竜也。すごいシーンだった。ここで、このドラマは成功したと思った。(個人的には不満があったのだけれど)

私はドラマや映画や芝居がそのまま好きだけど、こうして演じる人が発してくる筋書き以上の説得性に遭遇するのがたまらなく好きなのだ。生きてるのが愉しくなる。


※鋭い殺陣を感じた役者がもうひとりいる。何年前だったか、柳生十兵衛が一話づつに剣豪と勝負をしていくNHKの時代劇ドラマで、十兵衛が対戦する相手にダンカンが演じられたことがあった。そのダンカンの腰を低くおろした殺陣が素晴らしく鋭くて感動したのだ。