ベアの生還

ベアが急に食欲をなくしてから三週間経つ。みるみる身体も痩せてきて見るからにしんどそうである。やがて左の頬が腫れてきて原因がわかった。どこかの猫と喧嘩をして噛まれたのに違いない。

こういうことは森のボス猫のニャンタ(実際は飼い主さんはおられる)によくあることで、腫れたところの傷跡を見つけて薬を塗っておくとやがて膿が出て元気になったものだ。
だからベアの場合もそんなもんだろうと特に心配していなかった。ただ、ベアは猫専用のサンルームに居住していたので、具合が悪くなってから様子がいつでもわかるように私のいる部屋に移した。
ベアはとても安心したような様子になり、夜は私の布団にきてゴロゴロと喉をならしながら寝ることもあった。やっぱり家族とこうやってふれあいながら暮らすのがいいんだなぁと、それまでサンルームに隔離状態でいさせたことに胸が痛んだ。
夫の療養中は部屋の方に猫が多いと病状に影響するので、サンルームを増築して庭の一部ともどもネットで覆い、猫たちの専用の居住区としていたのだった。冬は暖かくして庭の一部にも出られるし、猫たちにとって悪い環境ではないと思っていたのだが、猫たちにとったら、人間家族と好きな時に触れ合えないのだから不自然なことで寂しかったのだろう。


それやこれやでベアは病気になってサンルームでも私のいる部屋でも自由にしていられるようになり、具合はしんどそうだがくつろいでいるように見えたのだった。
だが頬の腫れは大きくなるばかりでとうとう口に何も入れなくなった。
まだ10歳の若さであり、このまま死なせてしまってはサンルームの生涯で終わってしまい、そのことが哀れでならず、なんとか元気になってほしいと気の塞ぐ日々であった。
抗生剤も飲ますようになって今朝まだ暗いうちのことだ。ふと目が覚め灯りをつけると、ベアが廊下の方に歩いていくのが見えた。足の運びがなんとなく活気が戻ったように見える。
急いで起きて、病院からいただいていた缶詰をあけ皿に移してベアの前におくと、ベアは何日ぶりかで食べたのである。抗生剤の朝の分を缶詰に混ぜておいたらそれごと食べてくれた。
まだ頬は腫れているがきっとこのまま回復するだろうと思い本当に嬉しかった。

こうして経緯を書いているうちに空も明るくなってきた。おはよう、ベアちゃん、みんな!!!