龍馬伝 再放送「ふたりの京」

岡田以蔵佐藤健
土佐勤王党といえば、真っ先に脳裏に浮かぶのは「人斬り以蔵」といわれた岡田以蔵だ。何十年も前になるが、たしかやはりNHK大河ドラマだったと思うのだけど、石橋蓮司が扮した「人切り以蔵」は強烈に印象に残っていて、土佐勤王党岡田以蔵になったのだ。余談だけど、あの時の龍馬は北大路欣也さんだったろうか。武市半平太は誰が演じたのだっただろう。

今回の龍馬伝で、岡田以蔵佐藤健が扮しているのを知った時、ピュアで柔らかな心をもつこの少年が、どのような経緯で冷酷な人斬り以蔵になっていくのかと関心をもってみていた。
先週の回だったかに、半平太(大森南朋)が一度以蔵を仲間はずれにして、以蔵はそれにひどく落ち込み傷つき自信を失うのだが、そこを半平太はすっと掬い上げるようにして以蔵を掌に囲む。以蔵の柔らかな心が半平太の手中におちた瞬間である。
今回、半平太は以蔵が自分のさりげない言葉ひとつで人殺しを喜んでやることを確認し、まさに自分が強力な武器を得た満足感でほくそえむ。共犯者の平井収二郎宮迫博之)もまたもはや純粋で優しかった幼馴染の以蔵を、武器としかみなくなっている。
人間関係においてもっとも残酷な形のなかに囚われた以蔵は、龍馬に再会し、ふと失いかけているものを蘇らせ心が慰められるのだが・・・このことが後に彼の心が壊れて決定的な悲劇へといくことに影響していくのだろう。むごい運命もあるものだ。
そうした形や言葉で表しきれない心の揺れを、佐藤健がどのように演じていくのか目が離せなくなった。


■加尾(広末涼子
私は広末涼子という女優をまったく知らなかった。もちろん名前や顔は知っていたし、CMやドラマも観たことがある。アカデミー賞を受賞した「おくりびと」に主要な役で出演されていたこともわかっていた。

でも、この人がこんなにスケールの大きな女優であることは、今回の龍馬伝を観るまで知らなかった。
龍馬が姉の乙女によって自分の生きる道筋に導かれたと同様に、加尾も、龍馬の運命の成就に大きく関わっていた女性で、その女性を本当に大きく深く演じているのだと、つくづく感服したのだ。


■龍馬(福山雅治
私は宗教としてというより、人間としてイエス親鸞空海の生き方に強烈な関心をもっている。関心の行き先は、彼ら聖人の考えや行いや生き方などではなく、その視線である。
理念や思想をあらわす言葉では具現できない”視線”。地をはう虫に命や心を感じる視線である。
福山雅治の龍馬が、これまで映画や舞台やドラマで観てきた何人もの龍馬になかったものを感じるのは、この視線だ。

だがそれだけの龍馬であったら殺されるわけはないのだ。人間というやつは、内に自分と異なるものをもってる人間、自分以外の誰か多くの信頼を得る人、自分以外のものに好かれる人間を憎み陥れることをするところがある。
地を這う虫に命や心を感じるということすら憎み、その人を自分より信頼や評価を得ないようにはかる。
だがこの段階では命までとろうとはしない。誹謗中傷の限りをつくして陥とし込めばそれでいいのだから。


そうした存在が、実質的に自分を越える力を持つところまでいったとき、殺さなくてはいられないほど妬み恐怖するのだ。龍馬はそうして殺された。

この、地を這う虫にも愛を注ぐ内なるものをもっている龍馬が、殺されなければならないほどの実質的な力を持つ龍馬になる線を越える演技ができるか、というのが、龍馬伝の本当の成功の鍵のような気がする。
結局は演出の責任になるだろう。