紫陽花

昨年の夏の盛りに、家の紫陽花の枝を切って、西側の庭に九本の挿し木をした。
暑さがつづいていた頃だったし、犬が闊歩している庭で花に適した土ではないことがわかっていたので、根付くことはないだろうと思っていた。
それでも、夫に、「来年はこれまで雑草が生い茂るままにしていた西側の庭に、紫陽花がたくさん咲くかもよ」と話していた。心のうちで、『無理だろうなぁ』とつぶやいていたが、夫が「へぇ・・・」とこうして書くと何の関心もなく答えたようで、でも結構関心をもったと確信させる返事だったから、無造作に挿さず本でも見て正しくやればよかった、とチラと思ったものだった。それでひそかに花用の土を買ってきて、挿し木のまわりにまいておいた。


寒かった冬もやっとはなれてくれそうな温かい日の朝、挿し木をしたそこここに、鮮やかな緑の芽が出ているのに気づいた。数えてみると7本もある。
そうなのだ、七本もの紫陽花が、春に先駆けて芽を出してくれていたのだ。

不思議な喜びであった。報告をする相手がいなくなり、また初夏にもし一輪でも咲いたのとしても、一緒に夫と見ることもなくなって、そのことはしんみりとさびしいが、犬に荒らされ放題の庭で健気に命を保って、かわいらしい新芽を出してくれたことが、はっとする驚きと感激であった。