龍馬伝「さらば 土佐よ」

前回、岩崎弥太郎香川照之)に「龍馬を殺せ」と毒を渡したのは後藤象二郎だった。
岩崎弥太郎は悩みに悩み、迷いに迷い、半ば朦朧となってまちなかを歩いていると、龍馬(福山雅治)が茶店で茶を飲んでいる。弥太郎はふらふらと龍馬の横に座る。龍馬が飲んでる茶に気をとられるが、心の中で『毒など入れられるもんかぃ』という感じだ。ところが龍馬が、トイレに立ってしまう。「どうぞ毒をおいれ」といわんばかりの場面が目の前にあるのだ。弥太郎は、龍馬の湯飲みに毒を入れてしまう。
トイレから戻ってきた龍馬。「わしは用があるきにこれで」とそそくさとその場を離れる弥太郎。
「そうか」と弥太郎の後姿を見送りながら湯のみをとり茶をのむ龍馬。
「ググッーッ」と真っ赤な血を吐き、地面に崩れ落ちてのたうつ龍馬。
弥太郎の耳に響いてくる、「どうしたどうした」と騒ぐ周りの人の声と、苦しむ龍馬の声。耳をかたく塞ぐ弥太郎。
はっと我にかえって後ろを振り返る弥太郎。龍馬はまだ茶を飲んでいず、「ぬくい茶にかえてもらおうか」と暢気に言いつつ、手にとった湯飲みを口にもっていこうとしている。
駆け寄り、龍馬の手の湯飲みを払う弥太郎。くうに飛んで転がる湯飲みと茶しぶき。
「どがいしたぞや」と驚く龍馬。
そこで弥太郎は、「吉田東洋田中泯)におまんを殺せと命じられた後藤象二郎に、毒をわたされて、おまんの茶にいれた」と白状する弥太郎。茫然とする龍馬。

この出来事に先立って、龍馬は、武市半平太大森南朋)に「東洋を殺してくれ!」といわれ、「東洋に会って問いただし、その返答によって切る」と言っている。

龍馬は、弥太郎の話も含めて、もはや土佐で上士と下士、あるいは仲間内で諍いをしている時ではない、と大きな何かに押されていくものを強く受け止めており、その押されるものに従う時がきていることをひしひしと感じていた。
そして吉田東洋の家に行き、「武市半平太を城にいれて任を与えてほしい」と伏して頼む。だが、吉田東洋も、後藤に自分を毒殺させようとする人間ではないが井の中の蛙に過ぎない、しかも自分は偉いとそのことが大事な蛙でしかないのだと思い知る。
『脱藩するしかない』と決意がおこる。


龍馬の家族は、おおらかで品性正しく明るく互いを愛し合う善き人々ばかりである。
その家族たちと龍馬が食事をとっている。
知り合いの脱藩の話が出る。この時、龍馬の表情に変化が出る。一瞬の変化を見逃さない家族。兄(杉本哲太)は龍馬が家を出たすきに竜馬の部屋にかけこみ、荷物を調べる。地図を見つける。この地図は、要潤扮する脱藩を決心している下士からわたされたものだ。地図を見て、姉の乙女(寺島しのぶ)は、「脱藩の道筋を描いた地図だ」とすぐわかる。
憤る兄、悲しむ継母(松原智恵子)、兄の嫁(島崎和歌子)、姪。
その時、姉の乙女は言う。「龍馬がやっと、自分のやるべきことを見つけたんじゃ、行かせてやるしかない」と。
私はこの場面で号泣してしまった。なんと龍馬は幸せな人間なんだろう、こんなに愛され、信じられ、互いに心を開いて互いを見ている中で育ったのだ。こんな幸せはほかにない、と思い、その龍馬がついに国のために自由に働くために駆ける日が来たのだ、と感動して泣いてしまったのだ。


そして、その夜、龍馬が帰宅すると、夜遅いというのに、姉の乙女が針仕事をしていた。
「なにをしよるかね」と龍馬が訊くと、乙女は、「おまさんのはかまの修理じゃ、長旅に耐えられるように」と言い、脱藩に必要なものを準備してあるものを示す。
乙女は、万感の思いをこめて、「気をつけて行きや」と龍馬を抱きしめ、龍馬は家族の名をよび詫びる。
この場面も胸を打った。
こうやって家を、土佐を出ていった龍馬に救われる思いすらした。


翌朝、兄が質屋(?)に行ってなにかをナントカするという。ここがよくわからなかった、想像だが、質草を買ってくるといったような・・・。「上士様はいばってはいるけど、実際の暮らしは大変だから、ひとつくらいは質にいれている。それをこちらが手に入れておけば、我らに簡単に手出しはできない」という流れの話だった気がする。

兄は、こう言った。
「我らは我らの戦いをするのだ」と。このセリフにも感動した。共感もした。
そうだ、ここで自分が被った小さく見える問題を言っては失笑されるかもしれないが、動物の問題で、私は身勝手で残酷な世間と、私のやり方で独りで闘ってきた。守るために。

龍馬が出て行ったあと、土佐では恐ろしいことがおこった。
雨の夜、吉田東洋が惨殺されたのだ。武市半平太の手のものによる。半平太もまたかわっていっている。時代が大きく変わろうとするとき、人もまたそれぞれにかわっていくのだろう。

現代も同じだ。どう自分が変わるか、よくよく自分をわかっていなくては、と思う。