松本清張スペシャル「書道教授」

松本清張の作品を集中して読み漁っていた時期があって、書道教授を読んだはずなのだが、明確な記憶がない。今夜のこのドラマ、筋書きは原作どおりなのだろうか。込み入った筋の怖いドラマだった。

道教授の杉本彩は顔が美しいだけではなく、たたずまいや書に向かう時の姿が美しく存在感があった。
そして、書道塾としての表の顔の裏に、殺人もいとわない恐るべき裏の犯罪組織の中心人物でありながら、主人公の銀行員船越英一郎の命を助ける理由が、「私の字を美しいと言ってくれた」というところに見える孤独の深さをよく出していたと思う。

野川由美子の表向きは使用人でありながら、実はただものではない人物としての迫力と説得力があった。
主人公をもっとも追い詰めるバーの女性で船越英一郎の愛人、荻野目慶子の凄みは夢に出てきそうである。

名前はわからないのだが、要所要所に出てくる二人の刑事、特にセリフの多い方の人の迫り方がよかった。

全体として、松本清張のもつ社会性の意味合いは薄く、むしろホラーめいているところが残念だったが、充分楽しめた。