眠らない要介護者

夫には何種類課の薬が処方されている。まず血栓予防の薬。夫は二度の脳梗塞、一度の脳内出血を起こしているのでこの薬は欠かせない。他に痰のきれる薬や胃腸薬。そして就寝前に飲む薬が精神を安定させる効用のあるものと睡眠導入剤だ。
でも夫は寝る前に精神安定剤睡眠導入剤の薬を飲んでも飲み忘れてもかわらない。眠らない。そこで前月の健診の時に、先生に、「就寝前の薬は飲んでも飲まなくても同じなので飲ませないでいようと思うのですが」と言ったら、「ご家族が決めることですからいらないなら出しませんが、でも飲んでいた方がいいと思いますよ」と言われて服用をつづけている。


薬のことはおいといて、病人が眠らないというのは介護者には相当こたえる。私しゃ、鉄人間ではない、ない、ない!
ここのところ何日も睡眠時間が2時間、とれて3時間、という日が続いてつらい。
夫は自分が眠れないと、介護者が、自分を中心に起きていてくれると落ち着くらしいのだ。さっきも眠っていると、どこか遠い果てから、「ウオ〜ィ、ウオ〜ィ、いるかぁ〜」と私を呼ぶ声が聞こえ始めた。まるで地底から響いてくるような妙に迫力のある重い声である。眠りにしがみつきたくて、必死にその声を聞くまいとするのだが勝てない。
起きると、『なんだ、今日も2時間も眠ってないではないか』の時間である。でも仕方ないのだ。オムツをとりかえて、しばらく背中や脚のマッサージをして、こうしてパソコンを開く。寝直しをするとかえって身体が辛くしんどく感じるのだ。


ディサービスもショートスティも受けなくなって三ヶ月が経つ。介護保険サービスを上手に利用して介護者も休めるように、と誰もが言うが、今の私は拒絶感が強い。介護制度に関わるところではいかに人間的な介護が行われているかのように謳われているが、この制度の現場での人間らしさ、って何だろう・・・と悲しみのともなう寂しさを感じて仕方がない。


でもこれは介護制度や医療の世界の問題ではない。社会一般の問題なのだろう。その中で躓いてばかりいる人間がどこでも生き難いのは仕方がないのだろう。せめて私に現実に即した生きるノウハウを身に付ける能力があればいいのだが。

なんだ、結局無能者のグチか。