相棒 8-3 ミス・グリーンの秘密

冒頭にシックでエレガントで知性的な老齢の女性が公園のベンチで刺繍をしているシーンがあらわれる。
この老齢の女性がミス・グリーン(草笛光子)。
前日ハプニング動画を撮ってはテレビ番組に投稿している男が何者かに殺され、街は落ち着かない。その街を疾走するオートバイ。やがてバイクはミス・グリーンの前に止まる。刺繍をさす手を止めて男に微笑むミス・グリーン。「はじめまして」。<このシーンはラストの序章>



杉下右京(水谷豊)と神戸尊(及川光博)は、捜査の経緯のなかでミス・グリーンと出会うのだが、はじめて会った時、彼女はこのようなことを呟く。「命は誰でもいつかは尽きる。人の命を芝居の小道具のように思っている者も」と。
右京はこの呟きが単なる喩えの言葉ではなく、もっと深い実際の体験の中から出た特定の意味を顕すものだと感じ取るのだ。この一点から、右京はハプニング動画の投稿マニアが殺された事件の真実にいきつく。
真実をつかむ期間、右京は神戸にミス・グリーンを張るように言いつける。が、ミス・グリーンに見破られ、結局神戸は花や植物が美しいミス・グリーンの家に入り、二人でさまざまな会話を交わす。


草笛光子の老いてもなお上品な華と身に付いた知性的な物腰。はっとするほど静かで優しいまなざし。捜査のために自分を見張っている及川光博に言う。「あなたは新芽よ」。
応える及川光博は、じょじょに草笛の威厳や内深くにひそめている悲しみのようなものに気づいていき、敬意をもっていく。
二人の間に尊厳が通じ合うシーンは観ていて涙が滲むほど美しかった。ここの互いの尊厳の交歓が確かだったからこそ、ラスト<冒頭のシーンがラストにつながる>の射撃の盾になってミス・グリーンをさりげなく守ろうとした神戸と爆弾のスイッチを入れることができなかったミス・グリーンの場面が説得力をもった。


テレビ朝日の「徹子の部屋」で、水谷豊が、「及川さんはどんな人ですか?」と訊かれて、「シンプルな人ですね」と答えておられたが、相棒の神戸からも、及川光博がシンプルで実に清涼な人物だとわかる。
とにかく、「シンプル」と言い得る水谷豊も、相棒三話目で(実際はすでに一話目で)存在感ともに神戸尊に鮮やかになりきっている及川光博も只者ではない。とても惹きつけられる。