夫の兄からの電話

昨夜、夫の兄から「T(夫のこと)と話したくなって電話をした」と電話があった。
夫は勇んで受話器を耳にあてると切れ目なく話しはじめた。私がかわると、兄は「何言ってるかわからんのだが何と言ったんだね?」と訊いた。
「お兄様から以前に送っていただいた本のことを話したんです」と私はすまして答えた。夫は兄からの電話を喜んで興奮して、そして自分がしゃんとしていると感じてもらいたかったのだ。だから記憶にある本の内容について議論めいた格調で話したかったのだ。・・・・・と、私はそう感じたのだ。実際のところは私も夫が何を言っていたのかさっぱり聞き取れなかった。


夫はそのあと、寂しげであった。
それは今朝もつづいている。


老いて病んで死に逝くものは、生きてきた自信をも失って余生を過ごさねばならないのだ、ということを垣間見た思いがする。
人間の余生というものがもっとふくよかに健やかに過ごせるように、なぜ神様は配慮して下さらなかったのだろう、と私も寂しい。