熱は下がったけれど

夫は退院後の通院での点滴治療の後も、微熱気味であった。夜間もじわじわといかにも不健康そうな汗が出ていたし、起きている間もしんどそうだった。
病人がそうであるというのは介護人もまたそれなりに気をつけてみているわけだから、睡眠は充分とれないし、介助も通常より体力を使うやり方になり身体の節々が重くなったりする。それやこれやでここのところろくに眠ってない感覚があって、今夜(10日)は何が何でも眠らなくてはこちらが倒れるゾと、パソコンも早々と閉じ、夫の就床と同時に横になった。


ところが、である。うとうとしかけたところに、何かざわざわとした気配を感じてぱっと目が覚めてしまった。ここ八年間、夫が認知症と言われるようになってからこうしてちょっとしたことで飛び起きる。徘徊や二階にあがる危険が何度もあり、常に神経が張り詰めているのだ。
ひところ頻繁にあって苦しめられた徘徊、二階にあがる行動はなくなってきていて最近は大分楽になっているのだが、脳のどこかが、『何がおこるかわからない。油断はできない』と身構えている。
そのせいだろう、今夜のように眠りたい眠りたい眠りたいという日もわずかな気配を見逃さないのだ。

起きてスタンドの明かりをつけると、案の定夫が徘徊の様相を呈していた。汗で気持ち悪いのだろうかと見てみたがパジャマは乾いている。熱をはかった微熱もとれている。なにやらさっぱりとした顔つきだ。ここ数日続いていたはっきりしない体調がすっきりと元に戻った、という感じである。
そのことは嬉しいのだが、どうも身心が楽になって動き出したくなったという感じである。
体調が楽になったのなら気持ちよく眠ってくれよー、と悲鳴をあげたくなる気分である。