いつか必ず真実は顕かになる

何年も何年も前のことだ。もしかしたら何百年も前だったかもしれない。
その人は私にとって特別な人だった。といって特別な関係などということではない。私に心を開いてくれた数少ない一人の人であった、という意味だ。
数少ないと書いたが、私に心を開いてくれた人は、親や夫も含めてその人だけだったかも知れない。
何度かその人の話を他の人にまじって聴いた。愉しかった。幸せだった。


一度だけその人と、二人だけで話をしたことがあった。
その時、その人は、こういわれた。
「真実というものは、時間が経てば、それだけで顕かになるものなんだ」。


なぜそんな話になったかというと、私が、自分が誤解や歪曲を受けやすいと愚痴ったからだった。その人は、他の人のように、「それはあなたにも問題があるからだ」という意味のことは何も言われなかった。それどころか、「人はあなたを誤解や歪曲をしてるんじゃないんだよ、あなたが見えないんだ」と言われた。


この人は、人に対して、壁を作らず、常に心を開いておられるからだろう。
私はそのことに衝撃を受けた。とともに、自分に心を開いてもらえるということは、こんなに安心するものなのだとはじめて知ったのだった。

私は、このことにおいて、この人に、何百回生まれ変わっても感謝と尊敬の気持ちを忘れないだろうと真実思った。

だがそれからまもなく、私はその人を裏切った。私はたった一人私に心を開いてくれた恩人を、自分の苦境の重さと自尊心の強さで曇った目でしかみておらず、自分に必要なものを与えられることのみ望むようになっていったのだ。

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決して宣伝のつもりではないのですが、このことを、「ムシの方舟」という作品にして何年か前に出しています。出版工房「原生林」という出版社刊です。
ネットでは、日本ペンクラブの電子文藝館で読むことができます。
http://www.japanpen.or.jp/e-bungeikan/child/MaoAkira.html
(※日本ペンクラブは退会しますので、まもなく作品も削除になると思いますが)