生誕百年・松本清張ドラマスペシャル「顔」(NHK)

出演:谷原章介 高橋和也 原田夏希 大地康雄

<ネタバレあり>
ある時期まで、「テレビドラマなんか・・・・・」と意識的にドラマを無視していたのだが、夫の介護に専念するようになってなんとなくドラマを観るようになった。観ていると、「テレビドラマなんか・・・」が、「なんであんな風に思っていたんだろ? こんなに面白いのに」と思うことがおきてきた。


昨夜の表題のドラマはそのひとつであった。 面白かった!
1956年といえば私が中学生だった頃だが、当時の時代の雰囲気の中で、事件や人間関係を土臭く描き、そうした演出が成功していると思った。
谷原章介演じる犯人と、加藤和也扮するこんな事件に遭遇しなければ、自分の暮らしに関わること以外のことは考えず、ただただ実直に素朴に家族を愛して生きただろう男が犯人の顔をたまたま見てしまったことで犯人と対峙する、そのラストに向かう描き方が、泥臭くシンプルに描いているからこそ現実感があって深い、という気がした。

特に印象に残ったのは、犯人の谷原章介に、視聴者の内なるものまで喚起させそうな鬼気迫るものをがあったことだ。
これから殺そうと思っている恋人原田と汽車に乗っている時に、原田の知り合い加藤和也があらわれて原田に声をかけたのだが、この時、谷原はタバコをすいながら窓の外に視線を向けていた。・・・ここの横顔が、「顔」なわけだが、谷原は、鼻先に、薄っぺらで鋭い欲望をひっかけている犯人の硬い「顔」をよく出していたことだ。