「刑事一代―平塚八兵衛の昭和事件史」2夜

平塚八兵衛渡辺謙)・石崎刑事(高橋克実)とよしのぶちゃん誘拐犯の小原保(萩原聖人)の対決は圧巻だった。私は疲れて眠くて胃痛で弱っていたので最後まで観れる自信はなかったのだが、あっという間の二時間半だった。


八兵衛という刑事が強靭な人間愛を潜め、その人間性だからこそ確かな洞察性があることに感動した。渡辺謙がそれを具現して大変な臨場感の場に観客を放り込んだ、と思った。

対する小原保役の萩原聖人も、表面の弱者の持つ善と、善の色の底にねっとりとぬるりと沈んでいる狡猾さ、酷薄さを端々に感じさせ、渡辺・高橋と互角に(それ以上に)渡り合い、素晴らしい迫力で、あの取調べの10日間とおちる日までで充分堪能できた。萩原には『この人はこんな実力のある俳優だったのか』と敬意を抱いた。


ただ、よしのぶちゃんが殺されたことは、当時私は幼稚園に勤めていて、ひとごとと思えず、ニュースを見て大泣きしたのだが、その痛みが蘇って辛くてならなかった。
このドラマを観て、当時私は小原という犯人を恐怖の対象にしか見ていなかったことを知った。足に障害があった人だったことも覚えていなかった。

三億円事件で敗北した八兵衛が、ドラマのラストに小原保の土をもられただけの墓の前で、こんもりと盛られた墓土をかき抱いて慟哭する場面は、衝撃的だった。この刑事が、自分が調べた犯人を、奥の奥まで見据え、それは親か神に近い慈愛を犯人に感じさせたであろう、という衝撃だった。
私は昨日の1夜の感想で、八兵衛のようなタイプの刑事は冤罪も作ってきたのではないか、と書いたが、全部を観終えた今、なんと軽々しい浅はかな感想だろうかと恥じた。