大岡秀明評論集

児童文学評論・研究家で、多数の評論を発表されてきた大岡秀明さんが亡くなられて四年が経ちました。

大岡秀明さんは僧侶でもあり、仏教の平和活動、「東五仏教布教センター テレホン童話」の編集などにも尽くされました。これらの活動の根底にある、『こどもの現在と未来が真の平和であるように』という強い願いは、作家や読者の信頼や共感を呼び、また大岡さんの篤実な人間性に励された人は多かったのではないでしょうか。私自身も、仏教童話に参加させていただいたことで、大岡さんの公正な広い視野の人間観に触れ、自分を取り戻したような癒しを得たものです。

このほど、こうした大岡さんの評論集が、ご友人の方々の手によって発行されました。拝見していて、今更に大岡さんの児童文学・こどもに向ける真摯な人間愛を感じ、あらためて大岡さんの死を悼み、ご冥福を心からお祈り致します。


題字:大岡苔明   表紙イラスト:もぎちさと


大岡秀明
1942年東京生まれ。早稲田大学文学部卒業。児童文学評論・研究家。僧侶。
ABCP(アジア仏教徒平和会議)会員として仏教の平和活動にたずさわり、モンゴル仏教会との交流を深めた。保護司として青少年の育成にもつとめた。
日本児童文学者協会日本子どもの本研究会会員。
全国児童文学同人誌連絡会事務局や「東五仏教布教センター テレホン童話」編集責任者を長く執り行い、児童文学の発掘と育成に貢献した。
2005年没。
「『共同体』への問い直し」(『現代児童文学論集』五巻・日本児童文学者協会編・日本図書センター・2007年発行)「大衆読み物の思想性」(『サザエさんの<昭和>』鶴見俊輔・斎藤慎爾編・柏書房・2006年発行)など評論多数。

はじめに   大岡亮範
(略)
師は中野福寿院の第四十六世住職を勤め、児童文学の評論家として江湖にありました。その仏法と児童文学が交差する地点として、東五仏教布教センターの「十二のお話」の制作があります。秀明師がよくお説きになったのが、弘法大師空海上人の即身成仏の教で「父母所生の身に、速に大覚位を証す」という言葉です。わかりやすく言えば「人は生まれながらにして御仏の心を持っている。その生まれながらの心身において(修行を通じて)自然に御仏の心を覚ることができる。」ということなのですが、この考えが子供のための物語を編む作業の中で大きな原動力となっていたようです。
(略)


目次
『故郷』解説  作者と作品について
森はな論ーヒューマニズム語り部
二十一世紀の子ども像を探る 1ー子ども観・子ども像への新たな視点
二十一世紀の子ども像を探る 2ー子ども観・子ども像への新たな視点
今日、人間を捉えるためにー人間主体の関係と個人について
1990年代を考えるー子ども主体を中心に


あとがき   長崎夏海
大岡秀明氏が亡くなって四年が経ちました。
大岡氏が伝え続けてきたもの、追求し続けてきたものをまとめたいという仲間たちとご家族の思いで、この本を作ることができました。
この本に収録したものは、大岡氏の仕事のほんの一部です。雑誌での書評、時評など収録しきれなかったものが数多くあります。
大岡氏は、全国児童文学同人誌連絡会の事務局長として活躍し、会の季刊誌に評論を発表し、一個の人間としての子ども像とは何か、新しい文学とは何か、文学のこれからの方向を追及し、伝え続けてきました。
同誌では同人誌評も長年担当されました。送られてくる何十冊もの同人誌を読むのは大変な仕事でしたが、大岡氏は全ての作品を読み、評を書かれていました。
また、東五仏教布教センターによる「テレホン童話」を立ち上げ主催してきました。電話やインターネットで童話が聞けるこの事業は、二十年以上続きました。大岡氏の「子どもたちの日常の発見や心のうちを伝えることが、他者とのかかわりを考える機会を提供し豊かな心情を育む。それが仏教にも通じる。」との考えから、仏教にはこだわらない童話を編み、届けてきました。
(略)

大岡秀明評論集
2009年6月1日発行
著者 大岡秀明
発行者 大岡房子
    東京都中野区本町3−12−9  
    TEL 03−3372−3647

編集
編集責任者 長崎夏海・野澤朋子・もぎちさと
編集委員 高橋秀雄・野本拓・ばんひろこ・八束澄子