捨てアライグマ

隣接の森に、猫の餌場がある。カラスよけのために犬小屋を置き、その中にフードを入れてあるのだ。引っ越してきた十七年近く前、その森やあたりに野良風の猫が多かったから、近隣の森は地元の人の動物の捨て場になっていたようだ。見るからに老いた鶏やチャボも捨てられていることはよくあったし、箱に入れられたいた生まれたばかりの猫や犬もいた。


それらが過去形になっているのは、不肖私が家に引き取ったり、里親探しをしたり、不妊手術を施したりしてきたからだ。森で生きる猫を手術するのは本当にかわいそうで辛いが、増えていくようになるともっと悲惨な目にあうといつも心を鬼にして捕獲し動物病院に連れていった。(犬の場合は、いくら手術をしたといっても、森に放しておくわけにはいかないから、特に大きくなった子は貰い手も見つかりにくく、結局我が家がその犬たちの住処になっているわけだが。)


こんな状況で一人で出来ることをやってきているだけなのだが、ふと考えてみるに、次第に近隣の農家の方も飼い猫の手術をされるようになり、ここのところ猫が捨てられている様子がない。少しずつ、捨ててはいけない気持ちになってこられてるのだなぁと嬉しい。・・・・・・と・・・現在森にいる二匹の猫のために(どうも飼い猫らしいのだが)、さきほど、犬小屋食卓にフードを持っていったところ、小屋の奥に生き物が蹲っていた。


アライグマだとすぐにわかった。シリバーの狸風の顔で、まだ子供のようである。私が小屋をのぞいても逃げない。でも小屋の奥に身体をぴったりつけて身をすくめているのがわかる。木漏れ日がさして身体の状態が見える。背中からでん部にかけて、ひどい疥癬状態である。そしてその真ん中あたりに何かの牙のあとが上下にくっきりつき、血が滲んでいる。この怪我のためにダメージを受けているのだとみえた。


なんとか救ってやりたい。とにかく捕まえて病院に連れていかなくては。放置していてはそのアナグマ自身も危険であるし、疥癬や病気のひろがりも考えられる。もし畑に出れば野菜の被害も出るだろう。
私はそのアナグマが動けない状態であるとみていたので、急いで家に帰り、ケージとバスタオルをもってまた小屋に戻った。バスタオルは、噛み付かれることを防止するためだ。


ところが、戻ってみるといなくなっていた。動ける状態だったのか・・・。
それにしても、捨てる人が少なくなった、と思ったのは撤回したい。あの疥癬のひどさからみて、不潔ななかに閉じ込めておき、症状がひどくなったので捨てたのだろうと思われる。むごいものだ。自分の国、住処から遠く異国につれておられ、ペットショップで売られ、こうして捨てられる。


そして彼らが病気になれば蔓延などの防止のために殺処分をされるのだ。えいえいとこうした繰り返しをしている人間社会。

少し飛躍した言い方だが、動物をぬきにした人間社会のなかでも、同じように弱い側の人間に強者や多数がしたことのしわよせがいく。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。