病院にてー本を読む 聴いている

入院する前、広さのあるスーパーに、夫のリハビリもかねてよく行ったが、もうひとつよく行ったのが書店である。夫は放送局に勤務して番組を制作していたので、知識や情報の収集という上でも本を読むのは不可欠で、それは認知症といわれるようになっても習慣として残っており、図書館や書店に行くのはごく自然な感じてあった。
認知症が進んで本が読めなくなっても、本のある場所は楽しいように見えた。


今回の入院直前、車椅子で書店のなかをゆっくりとまわっていた。
夫が何かに関心を持ったら、それを購入しようと思っていたのだが、夫はもうそんな気配を見せなかった。
それで帰ろうと出口にさしかかった時、私はある本に目をとめた。ぱらぱらとめくってみたら、宗教のような哲学のような、あるいはどちらでもない人生論のような本であった。
強い口調の文体で、それが何かあるとすぐに精神がへこむ私には叱咤されてるように思え、読んでみようという気になり買った。


その本を、今日(3日)、夫のベッドのわきで読んでいたのだが、ふと何気なく、「朗読しようか?」と訊いたら、夫は、「うん」と頷いた。
「なんかお説教のような本だから、あまり好きじゃないかもよ」と言ったら、「いいよ」というように口元を動かした。
そこで、最初から声に出して読んでいった。


すると夫は、聴き入ってるような態度であった。一章を読み終わって、「疲れたでしょ? 今日はこれで止めようか?」と言うと、「ううん」と首を振って、読み続けることを促したのである。
「!!!!!」私はとても嬉しくなって三章まで読んだ。
「明日も続きを読むね」と言ったら、夫ははっきりと頷いた。
これは快挙!!!!! ですよ。いろいろ何でも試みてみるものだ。夫が、楽しい、と思うものを見つけていきたい。