祈り

うちのナムが旅立った後、ここ数年間、毎夕ごはんを持っていっていたNさん宅のワンタが死んだ。前の日、苦しそうであったが、背中や頭をさすってやると、ナムがそうであったようにとても心地よさそうになっていた。そこを立ち去るのが辛かったが、しばらくして立ち上がって家に帰った。ワンタを振り返ることはできなかった。目で追っているのを感じたからだ。振り返ったら帰れなくなる。
翌日、ワンタはいず、Nさんの庭を探したら、新しくできたばかりとわかるこんもりとした土の山があった。「ああ、ワンタはここに眠っているのか・・・」。

後日、道で行き会ったワンタの飼い主さんに、ワンタの最期がどのようだったか訊ねたら、「箒で周りを掃くといつもどくのに、掃いてもどかないから、”はよ、どけ”と箒で押したら動かず、死んでいるのがわかった」と答えられた。私が身体をさすってやった時のまま息をひきとったとわかった。
「ワンタも苦しまずに往ったのにちがいない」とそれを救いに思った。


昨年の秋からいなくなっていたルルがいた。自分ではとうてい行けない場所の道路に横たわっていた。紙のように薄い身体になっていたが、すぐにルルとわかった。車を止め抱き上げて家に連れ帰った。
森の猫の何匹かも、こうして思いがけないところで、最期を見た。みんな私を待っていたのだと思う。守ってやれなかったのに。ルルはどれほど家に帰りたく、さびしく、心細く、飢えと寒さに苦しんだことだろう。