スーパーでお財布がなくなり、お巡りさんと大喧嘩

だてさんの様態が大分よくなられ、救急病棟から一般病棟にかわられたと知って、よかったよかったという気持ちが高揚し、突然今日見舞いに行こうという気になり、午前中に出かけた。
これまではあまり長くいるとご本人が疲れられるだろうとすぐに帰っていたのだが、もしかしたら退屈しのぎに絵本など読んであげられるかもしれないと、絵本を持って行き、看護師さんにそのことを話ししたら、「とてもいいと思う! ぜひぜひ!」ということだったので、5話のうち1話だけだけど読んだりしているうちに結構時間が経ち、その上帰りに古河の駅ビルの本屋さんに寄ったりしたもんだから、自宅近くについた時もう5時になっていた。

よその森やまちの何箇所かで待っている猫にごはん配りをしなくてはならないので、焦っていたのだが、その猫たちのフードが足りなくなっていることを思い出し、焦り焦り大手のスーパーまで行った。本文はここからだ。

とにかく時間がなかったので、猫のフードと、キャベツと、大根と、食パンだけを買うと決めて、エコ袋に財布を入れ、決めた品物の売り場にわき目も振らず直行し、全部を入れたら、すぐにレジに並んだ。そしてまもなく私の番がくるというところで、エコ袋から財布を手にもっておこうとしたら、ないのである。袋は空っぽなのである。

まずキョトン?である。袋に財布を入れる前に、お金がいくらあるか確かめた。それから袋に入れた。だから、財布を車に入れっぱなしているはずはなかった。それから、トイレにも行ってないし、とにかく目当ての売り場にさっさと行ったのだから、どこかに置き忘れた、ということもあり得ないのだ。なのにないのだ。

財布には、免許証と全部のキャッシュカード、ほかいろいろ入れてあった。それらが全部なくなったのだ。
すぐにサービスカウンターに行き、事情を話すと警備員さんを呼んでくださった。ところが若いボーとした警備員さんはさっぱり頼りにならない。免許証がないと運転ができないし、タクシーに乗ろうにもお金もない。カード類の処置もしなくてはならないし、とにかく、盗難にあったのは間違いのないことなので、警察に届けてもらった。

でも警察は来てくれるわけではない。警備員さんの携帯電話にかわらされて、事情を聞かれたのだが、まず最初に、半分パニクッテル私はカチンときた。
「盗難、とお宅は言われますが、何を持って盗難と思ったのですか?」
「エコ袋に入れておいたら消えたからです」
「消えたのは、落としたか、どこかに忘れた、ということもあるでしょう。誰かの手がお宅の袋に入っていたのを見たのですか?」
「はぁああああぁ? 誰かの手が私の袋に入るのを見たなら、こんな届けはしなくてよくなってるでしょう。少なくとも、私の袋に何をするんですか、ぐらいは言えますからねっ」
「ああ、要するに、誰かがもっていったという証拠はないわけだ。じゃ、盗難届ではなく、落し物届けですね」
「どっちでもいいから、なくなった免許証の件をどうしたらいいかはからってください!」
「なんだ、その言い方は!」
「それはこちらが言いたいセリフですよ。なんだかひとつも核心をもって聞いてくださらない。はぐらかすだけの言い方に聞こえますよ。この会話で、盗難であろうと落としたのであろうと、探してはもらえないし、どうしたらいいかを教えてももらえないとわかりましたが、免許証をどうしたらいいかだけは教えていただきたいんですよ。免許証がないと、家に車で帰れないということですよね?」
「ああ、そうですね。歩いて帰るんですね。そして、明日、警察まで届けを出しにきてください」
「歩くって、私の家は○○なんですよ、このスーパーから二時間や三時間では帰れないって、おまわりさんならわかりますよね」
「ああ、相当かかりますね」
「迎えを頼む家族はいないし、タクシー代はおろか電話かける10円だって今はないわけでよ。財布がなくなったんですから。突発的なことで免許証がなくなった場合、なんらかの便宜ははかってもらえないんですか?」
「そういう決まりはないからね」
「警察の仕事は人殺しの犯人を追っかけるだけじゃないでしょう。事故や事件につながる事態に対して便宜をはかるのも仕事のうちじゃないんですか?」
「だから、そういう言い方やめなさいっての!」
「わかった!!! もういい!!! 免許証不携帯で運転してやる!!! 捕まえに来い!!!」
「ああ、捕まえてやるよ!!!」

とこやって電話のやりとりは終わったのだが、実際のところ、免許証だけのことではなく、猫のフードも大根も持って帰れないのだ。ほんとに困った。しおしおと籠に入れてあった品物を、サービスカウンターに出す。すると、サービスカウンターのひとりの店員さんが、気の毒そうな顔で「お貸ししましょうか?」と言われた。「ここではそういうシステムがあるんですか? 財布をなくした客にお金を立て替えるとかの」「いえ、システムはないです・・・私が・・・」「いえ、それはダメです。システムがあるなら利用させていただきたいけど」・・・と言っていると、お財布がなくなった方に警察から電話が入ってます、とカウンターの奥から別の店員さんが受話器をもって手招きをされた。


電話に出ると、さっきの警察官の声である。
「さっきは不備な言い方をしてすみません」と。
「い、いえ、こちらこそ相当言いたい放題言いまして」
とこんな風向きになってドキマギしているところあかに、「これじゃないですか?!」と大声が。見ると、警備員さんが見覚えのある財布をこちらにかざしている。
「あ、私の財布です!」そして電話にも向かって、「ありました! 出てきました!」。
受話器を耳にあてたまま、財布を開けみるともとのままである。
なんだかわからないが、電話の警察官も「よかったですねー」と言ってくださり、カウンターの店員さんも総出で「よかったよかった」と大騒ぎである。

「どなたが届けにきてくださったのですか?」とたずねると、小さな男の子を連れた男性である。お財布に入っていた分の2割の額のお札を無理やりもらっていただき、男の子に、「ほんとにありがとう。良い人に見つけてもらってほんとによかった」とお礼を言うと、男の子ははにかんでにこにこと笑ってくれた。

とにかく大変な騒ぎをおこしてしまった。
エコ袋に入れておいた財布がなんで落ちたのか謎ではある。そして通った覚えのない通路の棚にあったというのも謎である。
もしかしたら、あたふたと必要な品を籠に入れていたすきをついて口広の袋から財布を抜き取ることはたやすく、だけど中身の貧しさに同情して、その人は棚にポイと置いて行ったのかもしれない。


時々、友人に言われる言葉を思い出した。「あなたって、運がいいのか悪いのかわからない人だよねぇ」。