我が家の戦争

実際に戦争で苦しめられている人たちの暮らしがある中、「我が家の戦争」などと揶揄っては不謹慎だが、私にとってはほんとに「これは戦争だ!」というしかない昨夜であった。
勿論闘う相手はかなりな力を持つ雷雨。
その前夜はママシロとミナミサンが逃げ出して困ったのだが、昨夜はそんな生易しい事態ではなかった。なにしろ、私一人が雷雨の防戦で必死の中、内乱と敵前逃亡が続いたのだ。


何かというと逃亡めくプチ、ママシロ、ミナミサンは昨夜は柵をしっかり作り直していたから、ま、本人たちは不満だろうけれど一応の安泰であった。
ところが、西側の方向から、犬の悲鳴が。それが尋常でない悲鳴である。「大変だ! 水が床下になだれこんでいるんだ!」と大慌てで外側からそちらに行き、サンルームの床下をのぞく。ここには、ミルとエムとタァがいるのだが、庭においてある小屋に入らず、床下にいることが多いのだ。
でも雨はかなり強いが水は特に出ている様子はない。呼ぶと、ミルとエムは出てきて、身体がぬれてもいない。
だがタァが出てこず、なお床下から悲鳴である。どうも猫たちの庭側の方のようである。


「あ、これはタロウがなんかやってるんだ!」と察知して、尚大慌てでそちらに回ると、やっぱり床下にタロウが頭をつっこんでいる。すごい唸り声だ。タロウがタァを噛み付いているようだ。「もお。まったく!!!」とそばにあった空のプラスチックの鉢でタロウをぶんなぐったら、タロウが「キュン!」と離れる。そのままタロウを猫側の庭に押し込み、普段は開きっぱなしの戸を閉めて、大急ぎで、床下に入れないようにそのへんに置いてあった鉢や柵を積んでしまう。これまでもタロウとタァが不仲なので、二匹が接することのないように、床下にはタロウが入れないよう処置をしているのだが、雷に怯えたタァが、中から処置を壊して猫の庭に出ようとし、そこをタロウに襲われたようなのだ。


タロウは、私にこっぴどく叱られたのははじめてなので、相当ショックだったらしく、リョウの犬小屋に隠れてしまう。この間に、床下と庭の間を強固に固めたのが、やれやれと安堵したのもつかのま、尚雷雨は続いており、タァとミルとエムが、逃亡していなくなっていたのである。さきほど三匹の柵に入った時に私があわてて戸を開け放したままにしていたのだ。


もお、ほんとに茫然してしまった。怯えたまま走るとしたら、事故に合いやすいだろうし、田畑を駆け抜けることも考えられる。農家の方の畑は今、秋、冬に収穫する野菜の植え付けが終わって、ビニールがかけられている。それを荒らしたら大変だ。
それで私は駆け回って犬を探し、いないので車でもっと遠くを探し回る。私はもろに強烈な雨をずうっと全身に受けているので、まさに川からあがったなにかのようになっており、車の座席などは水をあけたようにビジョビジョである。


まもなくミルとタァは戻ってきて、二匹は外では怯えまくるので食堂に入れる。この時私は怒鳴り散らした。
「この程度の雷や雨にびびってこんなざまになって、それでもうちの犬かぁ! お前たちを守る私の人生の厳しさなんざ、こんな雷や雨とは比べ物にならないほどだ!!! ガカガカ騒ぐなっィ!」。
ええ、これでミルとタァはおとなしくなりました。ほんとダス。表側のプチもママシロもミナミサンも以後静かに雷雨を耐えておりました。


さて、でも、エムが戻ってきません。結局、うっすら空が明るくなった5時に探しにでる。いない。
7時。また探しに出る。あ、いました、裏側のKさんの木立の多い庭を茶色の尻尾が動いたのを見つけました。
「エムーッ!」と気迫をこめて呼ぶと、しおしおと尻尾を巻いて出てきました。
この時はもう怒ってはいけません。「よく無事に戻ってきたね〜、エライ、エライ!」とビジョビジョの頭や身体をなぜまくりますと、エムは一気に晴れ晴れとした表情になって、クンクンと甘えた声とともにピョンピョンと私のまわりをはねたのであります。


今は、みんな、美味しいごはんを食べ、お天気もよくなっていて、気持ちよさそうにそれぞれのところで眠っています。
こうやって我が家は平和になりました。


でも、私は相当疲れました。犬が大っ嫌いになりそうなほどにね。戦争はもう起こりませんように。