犬を放す人

ついさきほどのことである。犬たちの散歩が終わった後、外回りを掃き、それから竹刀を持って駐車場にしている森に入る。素振りを少しやっておくのだ。ストレッチをやっている時、犬たちがギャンギャン鳴きはじめた。『いやだなぁ、お隣の娘さんの車があるから夜勤明けだと思うのに、散歩で鳴かせたあともこう鳴きたててはほんとに迷惑だ』と犬たちにブツブツ文句をつぶやきながらそちらに様子を見に戻った。


するとちょうど筋向いのお宅のおじいさんがもっていた飼い犬のロープを「それぇっ」という声とともに離されたのである。犬はロープを引きずったままいっさんに我が家の前にくる。
うちの犬たちはおじいさんがロープを持たれた段階でもうすでに吠えていたのだろう、そして放された犬が自分たちのほうにかけてきてそれはもう大変な騒ぎ。


私はびっくりしてしまった。さっきこのおじいさんが犬をつれて散歩に出られていたのを見かけたからだ。『なぜ放すのだろう』。

「お隣のRちゃん夜勤明けだから、あんまり鳴かせたくないんですが・・・さっき散歩に出られていたのに放すんですか?」とおじいさんに問うた。
「いや、散歩行こうとしたら離れたんだ」と言われるではないか。

この言葉ですっかり気が滅入った。
『この人は私が森のほうに行ったのを見て、車で出かけると思い犬を放されたのだ』とわかったからだ。つまり、これまでも私が出掛けた後、こうして犬を放しておられたのだ。どんなに我が家の犬たちは吠え、あたりに迷惑をかけていただろう。
犬が置いていかれて増えて行くに従い、特に鳴き声のことで本当に本当に本当に気を使ってきた。この筋向いの方が越してこられるまで、「こんなに多くいるのに静か」と言われるほどにやっとなったのに・・・・・・。


このお宅の方には、夜勤の仕事の方もいらっしゃるから、できるだけ鳴き声を最小限度にしたいから、と越してこられた後に何度かお話をして納得してもらっていたのだ。
でもはからずも今日、私が不在の時をねらってこうして犬を放しておられたのか。
鳴き声は我が家の犬がたてるのだから、何の痛みもなく、近所に鳴き声をとどろかせておられた・・・こうしたに深く傷つく。


だがこうしたやりきれないことは今に始まったことではない。近隣の多くの人がそうであったのを私はずうっと身に受けてきた。
思いあまって言葉にすると・・・・・いや、もうやめよう。虚しくなるだけだ。